「両国橋上下」 (上) 喜多川歌麿

流行の中心は上方から江戸へ

技巧的な結髪が廃れ、洗練された「粋」の文化が花開く

 古来より日本の文化や流行の発信地は、京都や大坂を初めとする上方でしたが、江戸時代後期に入ると風俗流行の中心は江戸に移ります。

 

 後期初頭の寛政6年(1794)頃から約15年ほどの間、歌麿の浮世絵に見られるような非常に大きい髷が流行しました。遊女の代表的な髪型である大きな「立兵庫」(横兵庫)や、髷先の大きい島田髷なども、この流行の影響と考えられます。しかし、仰々しい結髪は次第に飽きられ、均整のとれた大きさになっていきましたなっていきました。江戸後期は、中期の技巧的で華美な結髪が廃れ、簡素でスッキリした髪風が主流になっていった時代でした。

 

 前髪は前へ押し出して立てた形の「吹き前髪」が復活し広まりました。一時的に切り前髪が流行しましたが、結髪風俗に大きな影響を与える程ではありませんでした。

 鬢の流行は、後期初め頃まで燈籠鬢など横に張ったものでしたが、その後飽きられ、鬢さしを使わない「おとしばら」(鬢差しを使わない垂れ下がった鬢)が江戸の花柳界から流行し始めました。この鬢の形は基本的にそのまま今日に続いているものです。

 髱は、「おとしばら」と調和する丸みのある髱が結われ、長い髱などは廃れていきました。

 

 この時代の江戸においては、武家から町家に至るまで、若い女性は島田髷、既婚女性は勝山から発展した丸髷が一般的な髪型となります。一方、上方では新婦は「先笄」、既婚女性は「両手」という中期以来の髪が結われ、明治に至っても独自の風俗を保ち続けました。

燈籠鬢

「廓中美人競」鳥高斎栄昌

おとしばら

「風俗三十二相」月岡芳年

後期の兵庫髷

江戸時代後期になると、一般女性の間で従来の兵庫髷は姿を消し、遊女特有の髪型「立兵庫」が登場します。これは中期の「横兵庫」「両兵庫」から発展した「横兵庫」(立兵庫と呼ばれていますが、横兵庫が変化したもの)で、寛政期に蝶が羽を広げたような形に変化し、後に丸みを帯びて左右の髷で円形を成すようになりました。京の島原、江戸の吉原をはじめ、遊女の間で広く流行しました。

 

<後期の兵庫髷>

横兵庫、唐人髷、ふくら雀、のせ兵庫 など

立兵庫(横兵庫)「青楼年中行事」より

後期の島田髷

若い女性の結髪として定着していた島田髷は、この時代も様々な種類を生み出しました。代表的なものは若い女性が結った「つぶし島田」、御殿勤めや上流の娘の「高島田」「奴島田」など。髷に変化を持たせるため、鹿の子縮緬の布や吉野紙を掛けたり(髷かけ)、金糸を結ぶことなども行われました。

後期の島田髷は、寛政六年頃から極端に大きくなったものの、その後、十数年で小型化し、均整のとれた大きさに戻ります。中期の髷が全体的に細いのに比べて、太く量感のある形になりました。

 

<後期の島田髷>

高島田、つぶし島田、結綿、雄おしどり、雌おしどり、かけおろし、後家島田、島田くずし、嘉永島田、吉原島田 など

つぶし島田「都風俗化粧伝」より

高島田「都風俗化粧伝」より

後期の勝山髷 

中期から徐々に髷の幅を広げ、扁平になってきていた勝山髷は、天明(1781-1789)から寛政(1789-1801)年間頃に「丸髷」と名を改め、既婚者の髪型として広く定着していきます。

新婦は手柄に緋鹿の子絞りの縮緬を、その他は紫、浅黄色、草色などを、年配者は黒を用いたようです。髷の掛けものは、正式な場合は白の丈長を、普段は縮緬や金糸、吉野紙をしごいたものなどを掛ける習慣がありました。

一方、京坂では結婚しても丸髷は結わず、先笄、両手、あるいは背の高い形の勝山を結いました。

 

<後期の勝山髷>

勝山髷、吹く髷、しのぶ髷、稚児髷、正岡、長船、三つ輪、毛やり、手まり髷 など

丸髷 山本昇雲

背の高い勝山「都風俗化粧伝」より 

後期の笄髷

後期に入ると江戸では笄髷が廃れ、これを結うのは京阪のみになります。江戸で丸髷が既婚者の髪型とされたのに対し、京坂では結婚すると「先笄」を結い、懐胎し眉を剃ると髪を「両手」に改めるという風俗が続きました。この時期は「橋」と言われる掛け前髪や、笄さし(厚紙で作った笄を挿す筒)が考案されるなど、より複雑な結髪になっていきました。

<後期の笄髷>

先笄、両手(両輪)、島田くずし、片手髷、割り唐子、おしどり、おたらい、おばこ結び、松葉がえし、めおと髷、しゃこ など

先笄「都風俗化粧伝」より

その他の髪型

●銀杏返し

幕末以後の髪型で、髻を二分して根の左右に輪を作り、毛先を元結で根に結んだもの。京坂では「新蝶々」と呼ばれました。

●結び兵庫

中期の「結び立兵庫」から変化した髷で、一束にした髪を前からまげて折り返し、根の周囲に巻き付けて留めたもの。中流以下の既婚婦人に結われました。

●しのびずき

梳髪の一種。髪を引っ詰めて根を結び、左右に小さな輪を出し、根に巻き付けた髪を簪で留める結い方。京坂で結われました。

●馬の尻尾

洗髪後に一時的に結んだもの。襟のところで髪を一束にして結びます。「切られ与三」の横櫛のお富の髪型。

●その他/銀杏くずし、根下がり銀杏、銀杏髷、天神髷、たにし、丸輪、とんとん、深川髷、銀杏髷、もたせ、ごたいづけ、立兵庫結び、じれった結び、だるまがえし、毛だるま など

銀杏返し「吾妻余波」より

しのびずき「都風俗化粧伝」より

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