
消えゆく江戸の風俗を記した貴重な資料

ここんひゃくふうあづまなごり 明治18(1885)岡本昆石 編纂 鮮斎永濯 図画
『古今百風吾妻余波』は、明治18年(1885)に刊行された風俗資料的性格をもつ書物です。失われゆく「吾妻(あづま)=東国、本書では江戸を指す」の文化を描写・記録することを目的とし、当時の社会風俗を伝える貴重な資料として評価されています。内容は、女性の髪型や衣服、男性の被り物、子供の遊び など多岐にわたります。
その中の「婦女の髪風并考」「婦女の髪結属品」「櫛笄簪」という項目に、江戸時代初期(一部安土桃山)〜明治時代前期の女性の髪型、道具類などが挿絵入りで掲載されています。前書きには『予(われ)は茲(ここ)に古今東京に流行(はやり)たる婦女(おんな)の髪風を集めて地方の婦女(おなご)に示す。』とあり、江戸〜東京の流行が当時の女性たちの関心事だったことがわかります。
(*翻刻は私 西村がしています。間違いがありましたらぜひご指摘くださいませ。)

出典/古典籍総合データベース 早稲田大学図書館
https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko10/bunko10_06553/index.html




目録
婦女の髪風并考
看板譜
冠物の圖并考
婦女の髪結属品
櫛笄簪
婦女の衣服
子供遊戯の圖寄
幼雅言語
見世物の圖寄
錢貰ひの圖寄
東都名物
東都菓子名寄
東都婦女(あづまおんな)の髪風并(ならびに)考(かんがえ)
土地(ところ)変れば品かわるとやら西京(かみがた)では蝉鬢(たぼ)の釣(つる)し上りたるを好(よし)とし。越后(えちご)では老若共に嶋田崩しを好(よし)とするが如(ごと)く。国土地(ところ)に依(よっ)て様々の風あれども大約(およそ)徳川時代より婦女(おんな)の髪の結様(ゆいざま)は江戸風を以(もっ)て第一とすれど。同じ江戸風にも或(あるい)は上品(ひとがら)風あり。粋(いき)風あり。温順(おとなし)風あり又下品(でんぽう)風ありて。髪風を見れば畧(ほぼ)その身分を知り得べし。俚諺(ことわざ)に馬士(まご)にも衣装髪形と予(われ)は茲(ここ)に古今東京に流行(はやり)たる婦女(おんな)の髪風を集めて地方の婦女(おなご)に示す。総て東京婦女(あづまおんな)の髪風古(むかし)と今と比較(あわせ)考ふるに髷(まげ)は次㐧(しだい)に大きく。前髪追年(どんどん)に小さく。根は益々下る。方今(ほうこん)若(も)し同丈(おなじせい)を以(もっ)て前から真向(まむき)に見る時は嶋田も兵庫も丸髷も後面(うしろ)に隠れて宛(さなが)ら毛坊主を見るが如し。古今の人情も髪の形を以て知るべし。


寛永の比(ころ)十五、六歳より二十歳前後の女此(この)風に結びたり
若衆髷
二百余年前十三、四より十五、六歳の女子此(この)風に結ぶ者多し
下げ髪
旧幕府時代 諸侯の奥方 祝日に結びし髪なり
ちご髷
中等以上の家の娘十三、四歳の頃 此(この)風に結びしが近年は廃れたり
片はづし
幕府時代 諸侯の奥女中皆この風に結びたり
明暦万治年間 江戸吉原の遊女に此風あり 何と云ふ髷なるを知らず
寛永の頃 十四、五歳の娘に此(この)風あり 近年の蝶々髷の類欤(や)
島田髷
天和貞享の頃 十二、三歳の少女 此(この)風に結ぶもの多し
上の結様(ゆいざま)とやや同じにて前髪を垂(た)るこれも延宝前後吉原遊女の髪風なり
天和年間二十歳以 上四十歳くらいまでの女この風に結うこと多し
下げした地
徳川時代諸侯の奥方姫君などに此(この)風あり
しまだ髷
文化文政の頃 十七、八歳の娘この風に結びたり


高髷
徳川時代小姓に多し方今堅気(かたぎ)の娘にこの風遺(のこ)る
島田
天保時代まで江戸吉原のかぶろ(かむろ)この風に結ぶ
島田
明治十四年頃より流行(はや)る茶屋女に此(この)風多し芸妓にも折々あり
竪兵庫(たてひょうご)
昔は上等の遊女にこの風多し今は娘にも折々あり
ゆいわた
幕府時代に流行(はや)りし風なり今も廿歳(にじゅっさい)以上の者は此(この)風に結ぶ
島田
安政万延の頃まで十二、三の少女に此(この)風あり
めおと髷
二十歳前後の者此(この)風に結びしが近年は廃れたり
唐人髷
横兵庫とも云う近年じゅうさん、四より十八、九歳までの娘此(これ)風に結ぶ
つぶし島田
維新前品川新宿等の飯盛女に此(この)風多し
娘島田
近年十六、七歳より二十歳頃までの女此(この)風に結ぶ
毛巻島田
家内不幸ある時親族(みうち)の女老若ともに此(この )髷に結ぶ
唐人髷
前のと毛のかき方少し異なるのみ同じ年頃の女が結ぶなり

*复はもどる、ふたたびするの意味

ふくら雀
十三、四より廿歳(にじゅっさい)前までの女此(この)風に結ぶ兵庫と異なるを見るべし
松葉返し
此(この)髷維新前に年増が結びしが今は少(すくな)し
假鬟(かつら)下地
躍(おど)りの師匠又躍(おどり)子女形(おんながた)俳優(やくしゃ)常に此(この)風多し
鍋町髷
方今権妻(めかけ)又若き女房に此(この)風多し
天神髷
十五、六より二十歳前後までの者此(この)風に結ぶ
根下り銀杏
自毛斗(じげばか)りで結ぶ*复季芸妓などにこの風多し
丸髷
老年(としとり)たる女此(この)風に結ぶ小さき丸髷なり
蝶々髷
維新前十歳前後の少女多く此(この)風に結びしが今は少なし
銀杏返し
十二、三より二十歳前後までこの風最も多し天神髷と異なるなり
銀杏返
十一、二位の子供此(この)風に結ぶ後は銀杏返しなり
蔵前風